「楽譜が読めなくても弾ける」という謳い文句には辟易としている私ですが、どうしても気になってしまいます。「楽譜が読めなくても・・・・」というのは嘘だと思っている私でも、どんな嘘を語っているのかは気になる、そんな心境です。
さて、この本では楽譜の代わりに鍵盤楽譜というものを推奨しています。鍵盤楽譜というのは、おたまじゃくしではなく、鍵盤の絵に指で押さえる部分が示されているもので、直感的に弾けるというものです。見た目何かに似ているなと思いましたが、DTMではよく見かける、ピアノロールと考え方はほぼ同じだなと思います。ただ、私にはあまり直感的には見えないのです。はっきりいえば読みにくい、そう感じます。特に、音の長さはおたまじゃくしの方が瞬時にわかります。
この本の主張は、大人のピアノは、子供とは違うのだから、基礎からやるのではなく、弾きたい曲から、楽譜を読まなくてもはじめるのが良いということです。理由は、モチベーションを保つためには弾きたい曲を弾くのが良いということのようです。大人の場合、ピアノを始める動機は、弾きたい曲があるからというのが殆どであるからということです。そして、基礎をやっていたらいつまで経っても弾きたい曲は弾けず、モチベーションも下がってやめてしまうだろうから。それでは、意味ないじゃんと言うことのようです。
この説には一理あります。確かに、私も弾きたい曲がありました。レッスンでも、弾きたい曲に取り組んでいます。それ自体は間違いではありません。でも、基礎訓練は同時にやっておいた方が良いというのが私の考えです。基礎もなしに弾ける曲というのはおのずと限界があるからです。ピアノを弾く人の目的次第なんですけど、一曲だけでいいから弾きたいというなら、基礎をやるのは時間がもったいないかもしれません。それは、この本の主張どおりです。でも、趣味としてやると言うことを考えると、一曲だけでは済まないと思うのです。その時に、基礎がないと弾ける曲が限定されるし、効率も悪いです。
私、この本のような方法でピアノを始めるのはいいことだと思います。これで始めて、徐々に世界を広げていくのが良いのではないかと思います。一生、鍵盤楽譜ではなかなか世界は狭いと思います。あと、この本読んでいると、ネックは楽譜だけのような印象を与えますけど、それは違うと思います。楽譜は数ある難関から見れば些細なことだと私は思います。楽譜で躓くようでは、他の難関を乗り越えるのはかなり難しいのではないかと思います。
私が、「楽譜が読めなくても・・・・」に違和感を覚えるのは、つまり、楽譜が最大の難関ではないと思っているからです。それ以上に難しいこと一杯あるでしょう。楽譜が読めれば(読めなくても鍵盤楽譜があれば)、ばら色のピアノ生活が待っているわけではありません。そういう誤解を与えかねない説なので私はこの手の謳い文句に噛み付きたくなるのです。
読み物としては面白いですが、独学本としての実用性はどれほどかは疑問符です。読者がどのレベルまで弾けることを目指しているかによって評価は変わってくると思います。